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西蔵法師 −原作 河口慧海のチベット旅行記−
ネパール、カトマンズへその紳士は語を改め 「あなたはこれからネパールへ行くというが誰の所へ尋ねて行くか。これまで行った事があるか」 と聞いてきました。そこで慧海は、 「いや一度も行ったことはない。それゆえに紹介状を持って来ました。」 と言いますと、 「それはどこの誰からの紹介状ですか」 と訪ねられました。 「実はカルカッタにおいてネパール政府の大書記官ジッバードルという人から紹介状を二通貰って来ました。その紹介状はネパールの摩訶菩提(マハーボーダ)の大塔(だいとう)のラマにあててあるのです。そのラマの名は忘れましたがその書面には書いてあります。このジッバードルという人は領事としてチベットに八年ばかり居って大変によくチベット語の出来る人です」 といって委(くわ)しくその紹介状を貰った手続を慧海が話しますと、紳士は 「そりゃ妙だ。その紹介状を書かれたジッバードルという人は私の友達だが一体誰に宛ててあるのか私にその書面を見せてくれまいか」 と言うので 「よろしゅうございます」 といって荷物の中からその紹介状を出して示しました。すると、紳士はジーッとその上書を見ていましたが 「こりゃ奇態だ、この書面で紹介された主は私です」 と言いました。慧海は紹介状を宛ててもらった人に思いがけず出会ったのでした。 その紳士の名はブッダ・バッザラといい、カトマンズのボダナートという大塔の周辺の村の長で大塔の主人である人でした。 ボダナートには、チベット、モンゴリヤ、シナ及びネパール等から沢山な参詣人が来ていました。その中で最も多いのはチベット人で、チベット人の中でも一番多いのが巡礼乞食でした。 続く |
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(C) Tabinchu Terada |