小生は、実は、次回の作品として宇宙物理学に関する本を書き出していた。そのネタ振りを今回の作品にも入れている。
書店の物理専門書の本棚に並んでいる、いわゆる“宇宙物理学書”という本では、一般的に、一般相対性理論を基礎に、宇宙が議論されている。たとえば、ビッグバン宇宙説に一般相対性理論を当てはめると宇宙誕生数十万年後の宇宙の温度が4000度程度であったことが予想され、その温度以上では水素原子がイオン化していたと考えられる。水素がイオン化するとどうなるかというと、宇宙空間に電子が溢れていて、光が長い距離自由に走れなかった。つまり、今、宇宙に満ちている光は宇宙誕生数十万年以前の情報を持っていないことになる。まぁ、かみくだいて言えば、それ以前の宇宙を“見る”ことはできない。John C. MatherとGeorge F. SmootはアメリカNASAの観測衛星を使って、その宇宙誕生数十万年後ごろの光を観測した功績によって2006年にノーベル物理学賞を受賞した。その観測によると、その光はほとんど均一だがわずかに揺らぎがあったという。だから、このわずかな揺らぎによって、こうして現在、宇宙空間に星がばらばらに存在するのではなく、銀河のような集団があるのだろう。
それなら、宇宙誕生数十万年以前の宇宙の姿はどんなだったか知りたくなるのが人の性だろう(小生だけ?)。宇宙物理学書には、時間を宇宙誕生1秒より短い時間まで遡ると、“相転移”が起こって“弱い相互作用”と“電磁気力”とが統一され、さらに遡るとこれらと“強い相互作用”とが統一されると書いてあるものがある。さらにもっと遡ると、これらと“重力”とが統一されるだろう、とも。
そこで、小生は、宇宙誕生1秒より短い時間まで遡ることができる、こうした理論を求めて“場の量子論”なるものに関する本を読み始めたのだった。…が、しかし、…そこには宇宙とその理論との関係などは、ほとんどまったくと言っていいくらい何も書かれてはいなかった。そして、今、小生は、“場の量子論”の示す宇宙観・世界観を描いてみようと挑戦中なのである。そこで、やっと今回2008年のノーベル物理学賞日本人3人が独占という話につながる。“場の量子論”の本を読んでいると、南部さん、小林さん、益川さんの名前に遭遇した。応用ばっかり考えて、基礎科学に力を入れない日本にあって、“場の量子論”に日本人の名前が頻繁に挙がるのは、日本で出版されている本ゆえの依怙贔屓かと思っていた。ところが、彼らは先駆者であったのだった。そうとは知らず、今回の受賞でその偉業に驚いた。
さて、小生は、今回の作品でインド哲学を紹介した。インド哲学を調べるなかで、インドの哲人たちの世界の“ 根源”を探求する情熱に感じ入るとともに、なぜに日本ではそういう人物が出なかったのだろうと思っていた。それも、小生が、物理学や哲学の話をしようものなら決まって変人扱いされるような国なのだから致し方ないかと納得していた(インド人はこのテの話に喰いついてくる)。
インド哲学なるものが生まれたインド人にはノーベル物理学賞を受賞した人が何人いるのだろう?先の“弱い相互作用”と“電磁気力”とを統一したサラム・ワインバーグ理論のサラムさんはインドのお隣のパキスタン人である。彼も、もちろんノーベル物理学賞を受賞している。それならば、ITにも強いというインド人はいったい何人のノーベル物理学賞受賞者がいるのかと思いきや…たった一人であった(小生の調べたところ)。天体物理学者のチャンドラー・セカールさんがその人である。行きつけの韓国系焼き肉屋のお姉さんに韓国人のノーベル賞受賞者を聞いたところ、受賞したのは平和賞の金大中さんだけだそうだ。工業技術ではライバルのお隣、韓国ですらノーベル物理学賞受賞者はいない。
そう考えてみると、欧米以外のノーベル物理学賞受賞者という観点では、日本の受賞者はかなり多いと言えそうだ。日本人の、世界の“ 根源”を探求する情熱も捨てたものではないらしい。小生も、今回の作品の不評さにもメゲずに、宇宙物理学の本を頑張って書くとしよう…それが未来の天才を生み出すきっかけにでもなることを期待して。
今回のノーベル賞受賞者3人の本は増刷や絶版からの復活が決まったそうだ。人類の、世界の“ 根源”を探求する情熱が引き継がれていくことを、小生は願ってやまない。できれば、小生に命あるうちにその情熱がたくさん実を結びますように!
(※ 小林さんの「消えた反物質」は絶版状態から復活するそうです)
